LOGIN自宅に戻った僕は、しばらくの間、自室でぼうっとしていた。
『次の土曜日の夜に』という彼の言葉と、手の甲に触れた唇の感触が忘れられない。
あの後、僕達が体を重ねることはなかった。とはいえ、緩い愛撫がエスカレートしないわけもなく、僕は彼を求めた。でも、自分でセックスはしないと言ってしまった手前、それを口にすることはできなかった。
視線で察したのか、相沢さんは「あんな事、言わなきゃいいのに」なんて言いながら、僕の股間に顔を近づけ、僕自身を口に含む。そのまま口でされて、達してしまった。それが、今から三十分ほど前の事だ。
「次の土曜日、か……」
カレンダーを見る。無意識に数えて、土曜日までが長いなんて思ってしまう。
まさか自分が、ここまで心待ちにしているだなんて思っていなかった。これではまるで、ホストに入れ込む女性客みたいだ。
「同性と、こんな関係になるだなんてな……」
乾いた声で自嘲する。
昔の自分からは、本当に考えられない事だった。体を重ねるのは、好きな人とだけと考えていた。それなのに――。
「――っ!」
先ほどまで触れていた彼の指の感覚が、鮮明に思い出され、僕は一人、声を殺して悶える。
無意識に手が下半身に向かい、自身に直接触れた。彼の手の動きを再現するように動かす。
(ぁ、やば……。気持ち、いい……!)
自分の体が作り替えられたことに、戸惑いはある。けれど、それ以上に、彼に教え込まれた快感が忘れられない。幸せを感じられるなら、体だけの関係でも悪くないとさえ思えてくる。
翌日から、日課だった篝火通いを土曜日だけにした。マスターと理沙さんに、何かあったのかとたずねられ、適当に誤魔化す。相沢さんとの待ち合わせだなんて、さすがに言えない。
仕事に戻る理沙さんと入れ違いに、相沢さんがやってくる。
「佳晴さん、いらっしゃい」
彼の爽やかな笑顔に、僕の胸は高鳴り、腹の奥が疼く。
「……どうも」
気恥ずかしさと欲情している事を悟られたくなくて、僕は素っ気なく返してしまった。
相沢さんの表情が、ほんの一瞬だけ曇った気がした。
何だったのだろうと思っていると、「ご注文は?」とたずねられる。
「あ、えっと……チャイナブルーとローストナッツをお願いします」
「かしこまりました」
うなずく相沢さんは、手際よく青く透き通るカクテルを作る。
「お待たせいたしました」
と、チャイナブルーとナッツの盛り合わせが、僕の目の前に出される。彼の声は、バーテンダーとしてのそれで。僕と彼の間に、見えない壁があるような気がした。
「……ありがとう、ございます」
そう言って、僕は青いカクテルに口をつける。いつも通りの味なのに、少し味気なく感じた。
ちらりと、相沢さんをうかがい見る。シックな制服姿が、相変わらず決まっていてかっこいい。
「どうされました?」
僕の視線に気づいたのか、相沢さんがたずねた。
「あ、いや……この前みたいに、ぐいぐい来ないんだなって思って……」
そう言った直後、僕は何を言っているのだろうと視線をはずした。
「へえ? 佳晴さんって、押しが強い人が好みなんだ? いい事、聞いた」
ふふっと、相沢さんは妖艶に笑う。
不思議なことに、その声音を聞いて、安堵している自分がいた。それに気づかない振りをして、僕は言葉を紡ぐ。
「そ、そんなんじゃ……! ただ、ちょっと気になっただけで……」
「慌てなくても、後でたっぷり……ね? それに、ここではそういう事はなし、なんでしょ?」
小声でたずねる彼に、僕は小さくうなずいた。
『ここにいる限り、指一本触れない』
それは、以前、僕が自分で言い出した事だ。まさか、ここにきて、過去の自分に腹を立てる事になるとは思ってもみなかった。
(でも……どうして、こんなにムカつくんだろ?)
腑に落ちなくて、僕はむすっとして黙々とナッツを口に運ぶ。
相沢さんの小さなため息が聞こえて、僕は彼に視線を向けた。
「まったく、子供みたいな拗ね方するなって。ここでは、あくまでも店員と客。あんたがそう言ったんでしょ?」
「それは、そうだけど……」
反論しかけて、彼の目が笑っていないことに気がついた。どうやら、相沢さんは、僕が彼に対して怒っていると思っているようだ。
弁解しようと口を開きかけた瞬間、
「相沢君、ご指名だよ」
マスターの声でタイムアップが告げられた。
「それじゃあ、また。ごゆっくり」
と、相沢さんがテーブル席へと向かっていく。
僕は、彼に手を伸ばしかけて、グラスに触れる。冷たい無機質な感触に、少しだけ冷静さを取り戻した。
なぜ、こんなにも胸がざわつくのだろう。今までは、すれ違っても何も感じなかった。でも、あの夜以来、相沢さんの影がちらつく。体は、確実に覚えている。彼の熱を、形を、感触を――。
もしかして、僕は、彼に沼っている……?
違うと否定するのは、さすがにもう無理だった。彼に会える土曜日の夜を楽しみにしているのだから。
諦めにも似たため息をつき、グラスを傾ける。のどに流し込んだカクテルは、不思議なほどに本来の爽やかさを取り戻していた。
先ほどの彼の言葉が、脳内で繰り返し再生される。そのせいか、飲み慣れているはずのカクテルで、いつもより酔っているような気がする。火照った体が、早くと彼を求めている。
「お待たせいたしました」
ふと、相沢さんの声が正面から聞こえた。
意識を向けると、彼がきれいな淡黄色のカクテルを僕の前に置いたところだった。
「え……あの、頼んでない……」
「このカクテルの名前、教えましたよね?」
口調はあくまでも仕事用だけれど、言葉の意味するところは、完全にプライベート用だった。
酔った頭でも、それが意味するところはすぐに理解できる。このカクテルの名前――ビトウィーン・ザ・シーツ。つまり、
僕は、無言でうなずいて、それを受け取った。
「よかった。もしかしたら、受け取ってもらえないかもなんて思ってました」
と、相沢さんは、ほっとしたような笑顔を浮かべる。
「そんなわけないじゃないですか。もう、
真正面から彼に告げて、僕は淡黄色のカクテルに口をつける。
強いアルコールに、わずかに眉をひそめる。けれど、すっきりとした甘さは、僕好みの味だった。
「僕……この味、好きだな」
なんて、思った事が口からこぼれてしまう。
「そう、ですか……」
と、相沢さんは面食らっていた。
「あれ、何か変な事を言いました?」
僕が小首をかしげると、彼はゆっくりと首を横に振った。
「変な事だなんて、とんでもない。お客様の反応が、想像よりも好印象だったので驚いただけです。それでは、
爽やかなのに妖艶な笑みを浮かべると、相沢さんは次の客のもとへと向かった。相沢相談所は、今日も大忙しのようだ。
彼の後ろ姿を見ながら、カクテルを煽る。僕の股間が、ひくひくと布地を押し上げているのは、強いアルコールのせいだけではないだろう。
(何だか、変態みたいだな)
と、苦笑するけれど、それでもいいと思ってしまった。
カクテルを飲み干し、ナッツを完食する。スマホで時間を確認すると、午後十時三十分をすぎたところだった。
店を出ると、思いのほか、夜風が心地よかった。
自宅に戻り、シャワーを浴びる。彼に抱かれるなら、少しでもきれいにしておきたかった。
髪を拭きながら、スマホに表示されている時計を確認する。篝火が閉店するには、まだ少し時間があった。
彼の部屋に、すぐに向かうかどうかを思案する。でも、体の奥のどろりとした疼きは、待ってはくれなかった。彼の顔を思い浮かべるだけで、自身がひくりと反応してしまう。
「……行くか」
家を出ると、冷たい夜風が頬をなでる。
アパートの二階に上がり、静まり返った廊下を歩く。彼の部屋に到着し、インターホンを押した。案の定、返事はない。扉を背に座り込み、彼の帰りを待つ。
時折、車が通る音が遠くで聞こえた。しばらくすると、静寂が戻ってくる。僕の鼓動だけがうるさい。
落ち着こうとして、スマホ画面を見る。まだ十一時前だった。何だか、いつもより時間の進みが遅いように感じる。
(……どうして、こんなに待ちわびてるんだろう?)
わずかに見える夜空を見上げながら、ふとそんな事を考える。
また、あの悦楽を味わいたいのは事実だ。けれど、理由はそれ以外にもある気がする。それが何なのか、自分でもよくわからない。
小さくため息をついたところで、階段を登ってくる足音が聞こえてきた。
どきりと、心臓が跳ねる。階段の方へと視線を向けて、逸る心を落ち着けるように深呼吸を繰り返す。
しばらく見つめていると、足音の主が階段を登り切った。
「佳晴さん!?」
驚いた声を上げて、足音の主――相沢さんが、駆け寄ってくる。
僕が、尻についた汚れを落として立ち上がると、
「何で、こんなところで? 言ってくれたら、鍵、渡したのに……」
と、彼は申し訳なさそうな表情をする。
「ごめん。図々しいかと思って……」
僕は、申し訳程度に謝罪する。
「そんな事ないよ。ったく、しょうがねえな」
なんて言いながら、彼は僕に口づけた。
「……っ!」
ほんの少し触れるだけのキス。それだけで僕は欲情してしまう。
「おいで」
そう言われるまま、僕は彼の部屋に入った。
「……ん゛ぅっ!?」
寝室に通された直後、相沢さんに噛みつくようなキスで口を塞がれる。唇の隙間から、彼の舌が容赦なく入ってきた。歯をなぞられ、舌を絡められ、口内を舐め回される。それがとてつもなく気持ちよくて、思わず彼にしがみついてしまった。
「んっ……ふぁ……ぅ」
僕が漏らす甘い吐息さえも、彼に飲み込まれていく。
「あ……相沢さん、どうしたの? なんか……この前と、違う……」
どちらからともなく離れた後、僕は息も絶え絶えにたずねた。
「悪い、余裕ないんだ。誰かさんのせいでね」
ギラついた雄の顔で、相沢さんがそんな事を言う。
彼の言う『誰かさん』が、自分の事だと自覚する前に、腹の奥がきゅうっと疼いた。彼が欲しくてたまらない。
僕は、無言で彼にキスをした。彼に比べれば拙いかもしれないけれど、必死に舌を絡める。
一瞬、相沢さんは驚いたようだったけれど、僕を受け入れてくれた。
甘いキスで完全にスイッチが入った僕達は、ほぼ同時に服を脱ぐ。ベッドに行くと、僕は相沢さんの股間に顔を近づけた。
「おっと! 今日の佳晴さんは、積極的だね」
「相沢さんが……欲しくて……」
うわ言のように言って、上目遣いで彼を見る。
「……ったく、堪え性がねえな。じゃあ、佳晴さんの足、こっちにちょうだい」
相沢さんが、にやりとして言った。
僕が躊躇すると、
「俺も、佳晴さんの舐めたい」
いいでしょ? と、彼の視線が言外に告げる。
僕は、渋々といったふうで、彼の顔の前に跨がった。
「いい子だ」
そうつぶやく彼の吐息が、僕自身に当たり、ひくひくと戦慄いてしまう。
恥ずかしさを隠すように、僕は相沢さん自身に舌を這わせた。びくりと震え、彼が小さく声を上げる。
(気持ちいい、のかな……?)
そんな事をぼんやりと思った僕は、一気に相沢さん自身を咥えた。
「あ゛っ……! やば……気持ちいぃ……」
喘ぐように言うと、彼は僕自身を咥えた。
「ん゛ぅっ……! ふぅ……ん!」
相沢さんの温かい口内に包まれ、僕は彼自身を咥えたまま喘いだ。
僕達は、我を忘れて快楽を貪り合う。部屋に響く卑猥な水音と僕達のくぐもった喘ぎ声が、互いの欲望を昂らせる。
「よしはる、さん……挿れていい?」
切羽詰まった声で、相沢さんがたずねる。
僕は、相沢さん自身から口を離し、挿れてほしいと告げた。
すると、相沢さんは無言のまま、僕を後ろからいきなり貫いた。
「あ゛っ……! い゛……いき、なりは……っ!」
慣らしていなかったからなのか、裂かれるような痛みと質量の暴力に涙が出る。
「悪い。今、マジで余裕ないんだ」
そう言うと、相沢さんは激しく抽挿を繰り返す。
「ゔ、ぁあ゛っ……は、はげし……い、よ……」
甲高い僕の嬌声が、室内に響く。もう少しゆっくりにしてほしいと、喘ぎながら告げても、相沢さんは聞いてはくれなかった。
(息、できないっ……!)
酸欠のせいなのか、目の前がチカチカと明滅する。なのに、僕の腰の動きは止まらない。もっと……と、相沢さんを欲していた。
「あ、やば……イキそうっ……! よしはる、さんもイキそう? ケツ穴、ひくひく……してる!」
相沢さんに指摘されて、僕は自分が限界であることに気づいた。
「イ゛……く! も……むり……! あいざわ、さん……イ、かせて!」
「いいぜ。奥、出すから……受け止めろ、よっ!」
言いながら、彼は僕の最奥を抉り、欲望を吐き出す。
ほぼ同時に僕も果てた。じわりと染みる腹の奥の感覚に、幸せを感じながら。
翌日から、僕は篝火通いを再開した。扉を開くと、マスターと理沙さんが以前と変わらずに出迎えてくれた。もちろん、竜希も。いつもの席でチャイナブルーをオーダーすると、竜希がそつなくカクテルを作る。その姿が本当にかっこよくて、思わず見惚れてしまった。「お待たせいたしました」声とともに、鮮やかな青色のカクテルが僕の目の前に置かれた。「ありがとう。それにしても、たつ……相沢さんは、本当に手際がいいですよね」竜希と言いかけて、慌てて言い直した。「ありがとうございます。一応、これで生活してますので。それより、今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」と、喉の奥で笑う竜希。「しかたないだろ? まだ、切り替えに慣れてないんだよ」声を抑えて抗議する。「でも、一線を画したいって言ったのは、佳晴さんですよ?」「それは、そうだけど……。なんか、ずるいよな。貴方は、どっちの時でも変わらないんだから」「俺は、こういうスタンスでやらせてもらってますので」ドヤ顔で宣う竜希に、少しだけ負けた気分になる。(でも、竜希が僕に沼ってるのは、事実だもんね)と、僕は密かにほくそ笑む。「佳晴さん? どうかしました?」小首をかしげる竜希に何でもないと言って、グラスを傾ける。爽やかな香りが、秘密を分け合う共犯者のように感じた。何か話したそうな竜希だったけれど、他の客からのご指名が入った。相沢相談所は、今日も盛況のようだ。竜希の背中を見送っていると、「お久しぶりですね」低く静かな声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかカウンター越しにマスターがいた。「本当にご無沙汰してしまって……。その節は、お世話になりました」テーブルにつきそうなほど、深く頭を下げる。「いえ、私は何も。また、お客様がこうして来てくださった。それだけでは
「うん、美味い」と、竜希は満面の笑みで言った。ほっとして、僕もカレーを食べ始める。僕史上、最高の出来に仕上がっていて、思わずにんまりした。「自分で作るより、確実に美味いわ」竜希が、大絶賛で頬張っている。「褒められるのはうれしいけど、普通に作っただけだよ?」「謙遜すんなって。マジで美味いんだから。でもさ、じゃがいも、入れてないんだな」「ああ、うん。そういえば、今までじゃがいもを入れた事なかったかも」指摘されて、無意識にじゃがいもを避けていた事に気がついた。幼い頃から、カレーにじゃがいもが入っていないことが当たり前だったからだろう。「竜希は、じゃがいも入れる派なんだ?」「あー……気分によるけど、基本的には入れるかな」思案しながら、竜希が答える。「でも、入れない方が好きかも。このくらいの辛さが、ちょうどいいんだよね」「よかった。多めに作ったから、ルウだけでよければ、おかわりしても大丈夫だよ」僕が言うと、竜希は瞳を輝かせてうなずいた。「それにしても、佳晴さんって料理上手なんだな」「自炊するから、それなりにはね」「カレー以外も食いたいなー」期待するようなまなざしを向けられ、僕は「そのうちな」とはにかむ。まさか、こんなに好評だとは思っていなかった。今までは、自分の好きなように適当に作っていたけれど、今度からは竜希のためにも、もう少しきちんと作ろうと思った。「でも、本当に僕なんかが作る料理でいいの?」ふと、よぎった不安を口走る。「……なよ」それまでもりもりとカレーを食べていた竜希は、手を止めると沈んだ声でつぶやいた。「え……?」よく聞こえず、僕は少し身を乗り出すように聞き返した。「『僕なんか』なんて言うなよ。悲しくなるだろ。他の誰でもない、俺が、あんたの手料理を食いたいの!」
まどろみの中で、僕は眩しさを感じた。ゆっくりとまぶたを開けると、カーテンの隙間から爽やかな朝の光が差し込んでいる。起き上がろうとして、胸の上の重みに気がついた。隣を見ると、竜希が僕を抱き枕にしていた。(そういえば、竜希の部屋に泊まったんだっけ)と、気持ちよさそうな竜希の寝顔を見つめる。「ん……よしはるさん……」「ふふっ。どんな夢を見てるんだか」微笑みながら小さくつぶやいて、彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。極力、物音を立てないように気をつけながら、着替えを済ませる。「ふぁ……あれ? もう、あさ……?」寝ぼけたような竜希の声が聞こえた。「おはよう、竜希。僕はそろそろ起きるけど、竜希はまだ寝てていいよ」言いながら、僕はベッドに近づいた。竜希の額に、軽くキスを落とす。「ん……冷蔵庫にサンドイッチが入ってるから、食べていいよ」竜希はくすぐったそうに目を細めると、ぽやっとした笑みを浮かべて言った。「サンドイッチ? もしかして、昨日の夜、先に寝てていいって言ってたのって――」僕が小首をかしげると、彼は軽くうなずいた。「朝から飯作るのって、面倒だったりするじゃん? 佳晴さんには、ゆっくり寝ててほしかったから」そう言って、竜希はもう一度あくびをする。「ありがとう、遠慮なくいただくよ」「うん。いってらっしゃい、おやすみぃ……」そう言うと、竜希はまぶたを閉じてすぐに寝入った。僕は小声でおやすみを告げると、愛おしい彼の頭を優しくなでて部屋から出た。「冷蔵庫は、と……」つぶやきながらキッチンをのぞくと、すぐ近くに黒い冷蔵庫が鎮座していた。扉を開くと、棚の中央にサンドイッチの皿があった。それとコーヒー牛乳のパックを取り出
「美味そう……」つぶやくと同時に、僕の腹が鳴った。「冷めないうちに食おうぜ」待ちきれないとばかりに、竜希がうながす。僕は何食わぬ顔でうなずいて、食卓についた。幸い、僕の腹の音は、彼には聞こえていなかったようだ。二人分のミートソースパスタとコーンスープからは、美味しそうな湯気が立っている。僕達はいただきますと言って、早速、食事に手をつけた。コーンスープのコクと甘味が、食べ応えのあるパスタにちょうどいい。「うん、美味い。さすがだね。短時間で、二品も仕上げるんだから」「サンキュー。でも、コーンスープは、市販のやつだよ。あの短時間で、パスタ作りつつ、ここまでなめらかにするのは、さすがに無理だって」と、謙遜する竜希。それでも、僕からしてみれば、すごい事には違いない。もし、同じ状況で僕が作ったら、二倍とはいかないまでも時間がかかると思う。「ごめん、佳晴さん」突然、竜希が頭を下げた。「え? いきなり、何?」理由がわからなくて、僕は小首をかしげた。「いや……明日、佳晴さん仕事だろ? なのに、無理させちまったから……」うなだれる竜希の姿は、どこかしょんぼりとした大型犬を彷彿とさせる。それが、何だかかわいらしいと思った。「ちょっとだるいけど、大丈夫だよ」だから謝らなくていいと言い置いて、僕はパスタを頬張った。「じゃあ、せめて、佳晴さんの家の場所を教えてよ」送らせてほしいと、彼は真摯に告げる。「……あれ? 言ってなかったっけ? 僕の自宅、このアパートの一階にあるんだ」「……へ?」素っ頓狂な声を上げ、竜希が目を丸くする。「なんか、ごめん」僕が謝ると、竜希は脱力したように微笑んだ。「いや……それなら、遅くなっても大丈夫だよな?」「え、いや、でも……明日、仕事だし……」「えー? いいじゃん。もう少し、佳晴さんと一緒にいたいんだって」
「挿れるよ」宣言した直後、相沢さんはゆっくりと僕の中に挿入ってきた。久しぶりだからか、内側から押し広げられる感覚がある。でも、痛みは、まったくなかった。「やば……久しぶりの佳晴さんの中、あちぃ……。このまま、溶けそう」言いながら、彼は僕の中に自身を沈めていく。「相沢さんの、おっきぃ……」切なかった腹の中が、少しずつ彼で満たされていく。言いようのない心のざわつきも、彼のぬくもりで溶かされていった。彼を根元まで迎え入れた直後、「あ゛ぁああ……っ!」僕は呆気なく達してしまった。腹の上に広がる白濁が熱い。でも、僕自身はまだ勃ち上がったままだ。「挿入れただけで、イッちゃった?」そう言って微笑む彼に、僕は荒い息をつきながらうなずく。「かわいい。でも、まだ終わりじゃないぜ? もっと、俺を感じてよね」と、相沢さんは緩い抽挿を始める。「な゛っ……!? だめ! イッた、ばっか……なのにぃ!」「だから、いいんだろ?」妖艶に言って、相沢さんはゆっくりと腰を動かす。全身を駆け巡る甘いしびれに、僕は喘ぎ悶える。「好きな人とのセックスって……こんなにイイもんなんだな」相沢さんが、恍惚な表情でつぶやいた。その言葉には、同意しかない。身も心も繋がる心地よさは、本当に久しぶりだった。「あいざわ、さん……んぁ……すきぃ……」「俺も好きだよ、佳晴さん」睦言を交わしながら、キスをする。舌を絡め、互いの唇を夢中で貪る。抽挿は次第に速くなり、僕も無意識に腰を動かしていた。「んっ……んふぅ……ぁっ&h
「ふ……っ……んぅ……ぁ……ん」甘い吐息が漏れる。我慢しようとしても、止められなかった。彼の舌が、ぬらりと僕の舌を絡め取る。かと思えば、舌先でちろちろと舐められる。僕もどうにか応えようとするけれど、上手くいかず彼のペースに飲まれてしまう。(相沢さん……)好きが溢れて、僕は彼の背に手を回した。頭の中がじんわりとしびれてきて、腹の奥が疼き出す。おまけに、足の力が抜け、立っているのがままならない。しがみつくように、手に力を入れた。「――っ!」彼の吐息を感じた直後、キスをしたまま体の向きを変えられ壁に押しつけられる。「ん゛ぅ……っ!」吐息まで飲み込まれそうな深いキスに、一瞬、息ができなくなる。執拗に舐め回され、舌が麻痺してくる。けれど、同時に敏感にもなっていて、彼の舌が動く度に僕自身が小刻みに動いてしまう。苦しくなって彼の背中を軽く叩くと、ようやく解放された。「っは……はぁ、相沢さん……どうしたの?」僕は息を整えながらたずねる。「悪い……。我慢してたんだけど、限界でさ。……嫌だった?」不安そうにたずねる相沢さんに、僕は首を横に振った。「嫌じゃないよ。むしろ、興奮した」少し恥ずかしいけれど、僕は素直にそう言った。以前、『店では、指一本触れるな』と、彼を突き放してしまった。あの時と今とでは、まるで状況が違う。でも、相沢さんは、ずっと約束を守ってくれていた。そんな彼をとても愛おしく思う。同時に、バーテンダー姿の彼に唇を奪われるという非日常感に欲情してしまった。「ふーん? じゃあ、これからは、店でも触っていいんだな?」確認するような口ぶりで、相沢さんが妖艶に微笑む。「あ、いや、今まで通り